最近、筆者が密かにハマっているアニメがある。
「学園アリス」というかなり昔のアニメで少女向け漫画が原作のアニメではあるが『「アリスという特別な能力を持った子供」と「それを良いように利用しようとする悪い教師・大人」と「学園の厳しい縛り・悪い大人に翻弄され苦しむ子供たちをなんとか救ってあげたいと奮闘する大人たち」』というリアルでシリアスな物語を描いているのが大人(の男性)でも楽しめる作品となっている。
この作品、実は韓国でも過去にアニメが放送されていて、主人公の「佐倉蜜柑」が「간 민지(カン ミンジ)」という名前に変わっている等登場人物を韓国人の名前に改編されているのだ。
Youtubeにもその韓国語版がアップされている(非公式)が、日本語の原作版であらすじを理解したうえで韓国語版を視聴することにより韓国語の勉強としてかなり有意義に活用することができる。
その「学園アリス」の韓国語版の題名が「학원앨리스(ハグォンエㇽリス)」。
ハングルは漢字由来の言語なので日本語の原題にそのままハングルを当てれば韓国語版の題名になる。
このようにシンプルな事例も多いのだが、韓題が原題と全く違うパターンも多い。
例えば、「クレヨンしんちゃん」。
かなりワールドワイドな人気を博している漫画・アニメで、英語版はそのまま「Crayon Shin-Chan」なのだが韓国語版の題名は全然違う。
その題名は、「짱구는 못말려(チャングヌン モンマㇽリョ)」。
「짱구(チャング)」とは、韓国語版でのしんのすけの名前{フルネームは신 짱구(シン チャング)で「しんちゃん」に掛かっている}で、「는」は「~は」という意味。못말려とは、「予測不能なこと・止められない」という様子を指す言葉であり、韓国語版の題名を日本語に直訳すると「チャング(しんのすけ)は手に負えない」といったところだろうか。
しんのすけの自由奔放な振る舞いに翻弄されるキャラクターたちを描くアニメとしてピッタリの題名というべきはないだろうか。
このように、アニメ本編を見ずとも外国語版の漫画・アニメの題名を比べて単語に分けて意味を調べてみるだけで結構ハードな勉強になるのがお分かり頂けただろうか。
そこで、今回の記事では日本で超有名な漫画・アニメを取り上げてそれぞれ英語版と韓国語版の題名を列挙、簡単な解説をしてみたいと思う。
※本当はこの手の比較は中国語版が一番差が出やすくて面白いところではあるが残念ながら筆者は中国語は全く知識がなく解説できないので、筆者の知識の範疇に収まる英語と韓国語(作品によってはドイツ語も)のみで進めさせていただく。何卒ご理解いただきたい。
英題も韓題も原題とほとんど変わらないパターン
まずは超初級編。このパターンに当てはまるものとしては、「原題がその漫画・アニメ独自の固有名詞がそのまま題名になっているパターン」が多いのではないかと筆者は考えている。
早速だが、以下に挙げる事例を見ていただければなんとなくイメージが湧くと思う。
CASE1 ドラゴンボール
ご存知、鳥山明さんの代表作で世代を超えて愛され続けている名作。
これは英題も韓題もほぼそのまま。
英語版:Dragon Ball 韓国語版:들래곤볼(ドゥㇽレゴンボㇽ)
ドラゴンボールは「七つ揃えるとどんな願いも叶えてくれる神龍を呼び出すことができる不思議な球」であり、この作品オリジナルのアイテムなのでもはやこれ以上訳しようがないのである。
CASE2 ワンピース
尾田栄一郎さん作のこれまた王道作品である。
作中で最も重要なアイテムである「ひとつなぎの大秘宝」を指すワードがそのまま題名になっている。これも作品独自のワードであるため外国語版も題名は共通。
英語版:ONE PIECE 韓国語版:완피스(ワンピス)
ハングルには長音を表す文字がないため原題で長音を含む場合はそこが欠落することが多いのだ。
韓題はほぼ変わらないが英題が違うパターン
少しレベルを上げて原題と英題が異なるパターンを挙げてみる。
この事例を探してみると意外と少なく、英題は直訳なのに韓題の方が全然違うというパターンの方が作品数が多いように感じる。(筆者が考えた理由は後の見出しで述べている。)
CASE1 北斗の拳
武論尊さん作の王道アクション作品だ。
韓題は漢字と助詞にハングルを当てるだけで題名となる。「복두의 권(ボㇰドゥエ グォン)」だ。
※ハングルは漢字由来の言語であり、漢字1つ1つにハングルが対応している。
一方、英題は原題の直訳とは少し外れて「Fist of the North Star」となる。
「Fist」は「拳(こぶし)」を意味する単語なのでそのままだが「北斗」の方が一筋縄ではいかない。
英語で「北斗七星」にあたる単語は「Big Dipper(アメリカ英語)又は Plough(イギリス英語)」。
「the North Star」というワードは固有名詞では「北極星」を指すので原題とは少し趣旨がズレてしまうのだ。(なぜこうなったのかは関係者のみぞ知る・・・)
CASE2 ゲド戦記
2006年に公開された宮崎駿作品の一つであるジブリ作品だ。
これは「ハウルの動く城」と同じようにそもそも原作が洋書で日本語の題名が後付けとなっているパターンだ。(意外と知らないで見ている視聴者も多いように思う。)
韓国語版の題名は漢字とカナの音にハングルを当てはめるだけ、「게드전기(ゲドゥジョンギ)」だ。
ゲド戦記の原題である小説のタイトルは「Tales from Earthsea」でこれがそのままこの映画の英題である。
「Tale」とは「物語」という意味を指す単語であり「Story」よりもフィクションな物語というニュアンスを含む。(Storyは実話にも使われる。)
この作品の舞台となっているアースシー(Earthsea)の物語という意味が込められたタイトルだ。
英題は変わらないが韓題が違うパターン
次は韓国語版が原題と大きく異なるパターンを挙げてみる。
最初に挙げた『クレヨンしんちゃん』のパターンもそうなのだが、日本の漫画・アニメを韓国語版に改編する際に人名が韓国人の名前、作中の舞台も韓国に変えられることが珍しくない。
そういった場合に改編があまりなされない英語版はそのまま訳すだけ・ローマ字にするだけで話は済むが、大きく改編されている韓国語版では題名自体が全く異なるものになるという現象が起こりがちであるように思う。(韓題よりも英題の方が異なるという事例が少ないのもこれが理由だと思われる。)
百聞は一見に如かず。以下の事例を見てみよう。
CASE1 あたしンち
けらえいこ作の日常系作品となっている。
英語版はそのまま「Atashin’chi」だが、韓国語版は「아따맘마(アッタマンマ)」である。
実はこれ、特に意味はなく原題と語感を似せてほしいという要請でこの題名になったらしい。
(元々は「私の家」という意味の「우리 집(ウリ ジㇷ゚)」という題名にする予定だったという。)
ちなみに、題名とはあまり関係ないもののこの作品も韓国語版で人名も変わっているパターンである。
例えば「立花みかん」は韓国語版では「오 아리(オ アリ)」、「立花ユズヒコ」は「오 동동(オ ドンドン)」という名前になっている。
CASE2 きこちゃんすまいる
布浦翼さん作の漫画で1990年代にアニメ化もされている作品だ。
主人公の「きこ」が韓国語版では「노 미소(ノ ミソ)」という名前に変わっている事情もありタイトルは「미소의 세상(ミソエ セサン)」と原題と大きく異なる。(英語版はKiko-Chan’s Smile。)
「세상」とは「世界・世の中」という意味の単語なので原題を直訳すると「ミソの世界(世の中)」といったところだろうか。
CASE3 美味しんぼ
雁屋哲さん原作の料理がテーマの作品。
題名がオリジナリティに富んでいるのでそのまま・・・といきたいところだが韓国語版の題名は「맛의 달인(マセ タリン)」と原題とは全く異なっている。(英語版はそのままローマ字でOishinbo。)
「맛」は「味」という意味で「달인」は漢字由来の単語なので漢字を当てはめると「達人」となる。
つまり、訳すと「味の達人」となるのだ。
CASE4 るろうに剣心
和月伸宏さん原作の最近新たにアニメが制作された作品だ。
英語版はローマ字そのまま「Rurouni Kenshin」だが、韓国語版の題名は「바람의 검심(バラメ ゴㇺシㇺ)」となっており、直訳がそのまま題名とはならない。
「검심」は主人公の「(緋村)剣心」の漢字にハングルを当てはめただけなので簡単だが「바람」の訳がかなり難しく一筋縄ではいかない。
「바람」は一般的には「風(Wind)」を意味する単語なのだが、スラング的な用法として「浮気心(を持った人)」という意味もあるらしい。
るろうに剣心の「るろうに」とは、作者曰く「流浪人」と掛けた単語で作者の造語なのだそう。
なので、ここでの「바람」は「ふらふらと浮浪する(という意味で浮ついた心を持った)人間」という意味で訳すのが一番原題と合っている訳なのではないかと思う。(公式の解釈の仕方を知っているよという方はぜひご一報ください。)
尤も、そのまま「風の剣心」という直訳で解釈してもそれはそれでいいのかもしれない。
英題・韓題ともに全然違うパターン
最後に更にレベルを上げる。
このパターンを探してみたのだがかなり少なかった。
大抵の作品は簡単な直訳だけで済むことがほとんどであり、わざわざ変える必要もないということなのだろう。(むしろ改編が少ない方が制作者側としても煩わしくないのでいいのかもしれない・・・)
今回はジブリ作品を2作紹介してみたいと思う。
CASE1 魔女の宅急便
ジブリにおける第5作目のフィルムになっている。元々は角野栄子さん著の児童向け小説が原作。
英語版は「Kiki’s Delivery Service」
韓国語版は「마녀 배달부 키키(マニョ ベタㇽブ キキ)」
英語版は中学英語で十分、「キキの配達サービス」が直訳となる。
韓国語版はハングルに漢字をそのまま当てはめると「魔女配達夫キキ」となる。
「配達夫」から転じて「配達業者・宅急便」などと翻訳するのが一般的になっている。
ちなみに、この作品の英題・韓題を調べてみたところドイツ語版の題名が少し面白いことになっていたのでそちらも併せて紹介しようと思う。
ドイツ語版は「Kikis kleiner Lieferservice(キキズ クライナーサービス)」という題名だ。
どれとも少し違うのは、「Kleiner」という表現が入っているところだ。
これは原型「Klein」で「小さい」という意味を持つ形容詞になっており、後ろの名詞の性別によって語尾が変わる関係でここでは男性名詞に掛かる「Kleiner」という形になっている。
「Lieferservice」は複合名詞(元々2つの名詞だったものを1つに組み合わせた名詞)であり、「Liefer」が「配達」を意味する動詞由来の名詞(原型はLiefernで「~を配達する」)という意味。
つまり、「Liefer」+「Service」で「Lieferservice」=「配達サービス」となる。
題名を直訳すると、「キキの小さな配達サービス(配達業者)」となるのだ。
言語によってこういった微妙な違いが出るのは中々に面白い。
CASE2 千と千尋の神隠し
ご存知、20年近くにわたって日本映画界の歴代興行収入1位をキープしてきたジブリの代表作だ。
この作品、なんとドイツ語版も原題だけでなく英題とも全然違う題名になっているのでそれも紹介してみたい。(ほとんどの作品は英題がそのままドイツ語版の題名になっている。)
英語訳:Spirited Away
韓国語版:센과 치히로의 행방불명(セングォァ チヒロエ ヘンバンブㇽミョン)
ドイツ語版:Chihiros Reise ins Zauberland(チヒロズ ライゼ インス ツァオパーランド)
まず、英語版のSpirited Awayは直訳すると「さらわれて消え去る」といったところだろうか。
「Spirit」という単語には名詞としては「精神・霊的なもの」という意味が含まれるので、霊的なものにさらわれて消えてしまうこと(=神隠し)なのである。
続いては韓国語版だ。
「千と千尋の」はそのままハングルとして落とし込まれているのだが、後半が原題と大きく異なる。
「행방불명」は漢字由来の単語であり、そのまま漢字を当てはめて「行方不明」という意味になる。
つまり、韓国語版は直訳すると「千と千尋の行方不明」というタイトルになる。
一見するとミステリー作品のようにも見えてしまうが、『「千尋」が神々の世界に迷い込み湯婆婆に「千」という名前(人物)に変えられ、本来の名前を忘れてしまえば一生「千」としてその世界から抜け出せなくなってしまう』というあらすじを踏まえると、『「千尋」という存在自体が(神隠しによって)「行方不明」になっている』と言える。それを踏まえての題名なのだろう。
最後はドイツ語版だ。
「Reise」という単語は「旅」を意味する動詞由来の単語だ。(原型「Reisen」で旅をする)
「Zauberland」は複合名詞であり、「Zauber(魔法)+ Land(国)」で「魔法の地(国)」という直訳になる。
つまり、ドイツ語版題名を訳すと「千尋の魔法の国への旅」といったところだろうか。
これも一見すると「不思議の国のアリス」のような王道ファンタジーを想像してしまうが、現実世界では絶対にあり得ないことが次々起こる神々の世界はたしかに魔法の国とも表現できるのかもしれない。
まとめ
今回は様々な日本のアニメ・漫画作品の3言語(最後は4言語)比較をしてみた。
作品・言語によって様々な違いが表れるのは中々に面白い結果ではなかっただろうか。
筆者もまだまだ言語能力には満足していない(特に韓国語・ドイツ語はほとんど使い物にならないレベル)なので、これから勉強して更にレベルアップしていきたい所存だ。


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